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横浜家庭裁判所 平成2年(少)1301号 決定

少年 N・K(昭49.3.17生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第一平成元年6月16日午前1時40分ころ、東京都町田市○○×丁目×番○○2階広場において、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であつて政令で定める酢酸エチルを含有する塗料(風袋とも約180グラム)を、みだりに吸入する目的で所持していた

第二平成2年2月21日午後1時50分ころ、海老名市○○××番地○○××号室の自室において、前同様の作用を有する劇物であつて政令で定めるトルエン60ミリリツトルを、みだりに吸入する目的で所持していた

ものである。

(適条)

第一、第二 各毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3

同法施行令32条の2

(処遇)

少年の夜遊び、不純異性交遊、怠学といつた行動が表面化したのは中学二年時頃からであるが、その生活史をみると衝動的に行動するなど問題性は早くから発現していたようで不適応を来しやすい状況であつたことが窺われる。母が病弱で入退院を繰返し、その間祖母に預けられるなど養育環境が安定しなかつたこと、又やつと生れた独り子として両親、特に父親が少年を甘やかし放題甘やかすなど、養育態度も適切でなかつたこと等から、我がままで極度に欲求不満耐性が乏しい性格が形成されてしまい、他者と安定した人間関係を維持する共感性が育たず、唯自分の思いだけを通そうとするところから、やがて学校生活にも不適応を来たしたものであろう。そして数々の問題行動が表面化するに及んで両親は驚き、従前の養育態度を改め、一挙に規制を強めたため、そのことに少年は愛情を失う、捨てられるという不安を強めたようで、両親の気持を試すかの如く更に行動をエスカレートさせ、シンナーに耽溺し家を外に遊び歩き、異性にも強い関心を抱いて一見優しく接してくれる男性であれば、見境なくのめり込む有様となつた。挙句シンナー代欲しさから売春まで行うようになり、前件の虞犯、窃盗保護事件で平成元年8月2日保護観察処分となつたものである。しかしその後も自己改善の努力を全くせず、数日後から又無断外泊を繰返して遊び歩き、ますますシンナーに溺れ、病院に入院しても断つことができず、結局今回入鑑に至るまで長期間家出し、暴力団員らと次々親しくなつて同棲し、又シンナー代欲しさに売春も行つていたというのであつて、大麻吸引も経験したとのことであるから、その生活振りは無軌道そのものというべきである。稀に帰宅した際、両親が注意しても一向耳をかさず、実行しようとした形跡がないのであり、今回も鑑別所内で充分反省した旨述べているが、少年自身の力を主体にして生活正常化を期待することは、これまでの経過に照し困難であると思われ、この際環境から隔離し、規律ある生活の中で強力な働きかけを行い、性格の偏りを矯め意欲を培う以外にないと云わざるを得ない。両親も再々少年に裏切られて失望し、現在では監護の意欲を失つている有様である。

更に鑑別結果によれば、所内では不定愁訴が多く、手首を傷付けた自傷行為もあり、偏つた性格に加え薬物依存が強く、それによると思われる神経症様状態が現われているので、精査のうえ対症療法、心理療法等の医療措置が必要とのことである。

以上の次第であるから、少年についてはまず医療措置を受けさせるため少年法24条1項3号、少年審査規則37条1項を適用し、医療少年院に送致するが、その必要がなくなつた後は、性格の偏りを直し健全な社会生活が営めるよう、一般少年院において矯正教育を施すべきことの勧告を付することとする。

なお平成2年少第1301号虞犯保護事件において虞犯事由として掲げられているところは、要するに前件保護観察処分後も少年の行動は改まらず、保護者の正当な監護に服さないで家出を繰返し、暴力団関係者らと交際して不純異性交遊、シンナー吸引にふける等、自己の徳性を害する行為を行つており、このまま放置すれば更に毒物及び劇物取締法違反など、刑罰法令に触れる行為をする虞れがあるというのであるが、審理の結果によれば、右は保護観察決定後の生活状況であり、前記認定第二の非行事実の背景であつて、同事実により現実化しているものと認められるから、保護処分の対象とはしない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 千葉庸子)

〔参考〕鑑別結果通知書〈省略〉

〔編注〕 本決定に対しては、処分不当を理由に抗告が申し立てられたが、棄却されている(東京高平2(く)74号、平2.4.3決定)。

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